産み出し

10日17:45

職場を飛び出して私は東に向かった。

友人の書いた脚本の舞台が行われるからだ。

 

昨年冬、友人から「脚本を書くことになった」と聞いたときは喜びが大きかった。子供が粘土遊びで作っては潰し作っては潰すかのように、なんだか自分の描きたいものをこねこねしていた(しているかのように見えた)彼が、ついに形にしたのだと思った。

 

そして「絶対に見らねば」と思った。翌月には飛行機と宿を取った。

 

それが今日だ。年も明けて令和も2年になり、舞台は始まった。ちなみに友人本人には行くことは告げていなかったのだが、東京の友人からバレていた。

 

11日

同居人、そして友人たちと花を差し入れ会場に入ろうとすると脚本を書いた彼はなんだか気恥ずかしそうな顔をして迎えてくれ、思わず抱擁した。

 

昨日に初日を迎えた彼、ないし彼らは実際にこの舞台を世に出せた喜びを得ただろう。もしかすると自信を喪失していたのかもしれないし、初日と同じように緊張していたのかもしれない。どのような気持ちで我々を迎えたのだろう。

 

私自身あまり演劇を見た経験はなく、初めて鑑賞したのは大学のときだった。高校の後輩が舞台女優をしており、彼女が出るというので観に行った。その後彼女は私と同じ歳の男性と子供を授かり結婚したのだが、数年前に離婚したらしい。今となっては演劇をしているのかも分からない。…話が逸れた。

 

とにかく最初は落ち着いた気持ちで観ていたのだが、結局のところ内容に引き込まれ色々なことに思考を巡らさせられたのだった。

 

身近にありそうな、会話。

彼が経験していそうな、内容。

私も聞いたことがある、お話。

 

ふぅん、こんなふうに考えてたんだ、

あはは、皮肉がきいているなぁ。

これって、もしかしてあの人?

 

公演後、4人で少し感想を話した。

受け取り手が違うと、気付いている点も違うので、面白いなぁと思った。

それは彼の思惑通りなのかもしれないが。

 

とまぁこんな感じで。膿み出し。